2020/07/23 23:25


ふと、目が覚めた。
 
しかし、相変わらず、不親切なベンチの上であり、
時計台を見てみると、1時間も経っていない。
 
おまけに、眠っている間も稼動中だったゲームボーイが、
今にも怒りだしそうだ。
 
ひとまず、ゲームボーイの電源を落とし、タバコを吸いにいくついでに、
空港内の探検へ出た。

天才的閃きの通り、ゲームボーイ、仮眠、探検の流れを3回繰り返して、
朝が訪れた後、すんなりと関門を突破し、無事にエアジャマイカの飛行機へ搭乗した。
 
離陸する際には、通常、外の景色を眺めたりするのだろうけど、
不親切なベンチでの仮眠と探検を繰り返していた私は、シートに座ったと同時に、
深めの眠りに着いていたらしく、飛行機がジャマイカに到着した事を歓喜する、
搭乗者達の元気な笑い声や、拍手で、ぼんやりと目覚めた。
 
搭乗者達は、一斉に洋服を脱ぎ始め、
分厚い冬服から、ヒラヒラした薄い素材の夏服へ、素早く着替えている。
 
当然、私は、そんな準備をしているはずもなく、
ジャケットとパーカーを脱ぐ事しか出来なかった。
 
そして、飛行機のドアが開き、
巨大なドライヤーから送り込まれたような熱風が、機内に入り込んだ刹那、
真冬が真夏へ変わる不思議を体験したまま、時は止まる。
 
機内に残った最後の搭乗者となり、飛行機の階段から降り立った場所こそ、
夢に見るほど憧れて、恋をした島、本物のジャマイカだった。
 
真っ青な空の斜め上に、銀色の太陽が照り、背の高いヤシの木々が揺れているだけ。
 
それだけなのに、胸が熱くなり、わんわん泣いた。
 
安心感と、達成感に近い感情からか、たくさん泣いて、
また、飛行場で孤立した私は、我に返った後、空港へ向かって歩いた。
 
ジャマイカのキングストン空港は、成田空港や、トロント空港に比べて、
ずいぶんと小さいし、台風で吹き飛びそうな空港だ。
 
インターネットを知らない時代の、19才の冬、
遂に、ジャマイカまで辿り着いた。





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