大きな揺れと共に、光の中へ戻ってきた。

 

外の嵐で、飛行機が揺れ動いている。

 

携帯電話を実家に置いてきたせいで、時間が分からないから、

勇気を振り絞り、遂に、隣のブタ野郎へ話し掛けた。

 

『エクスキューズミー』

 

英語の新聞を読んでいだブタ野郎が、振り返る。

 

『ワッタイムィズィ？』

 

ブタ野郎は、意外と素直な、良いブタ野郎で、自らの右手首を見て、

何か言った後、私にも見せてくれたけど、残念ながら、まだ、２４時前だった。

 

『センキュー』

 

本物の英会話だ。

 

しかし、カナダに到着するまで、まだ、６時間以上もある。

 

狭苦しいエコノミークラスの座席で、隣はブタ野郎だし、

これは、チェックメイトだ、絶望的だと思いつつ、

この旅の友であり、救世主でもある、ゲームボーイを取り出した。

 

カセットは、ポケットモンスター(緑)と、ドラクエモンスターズ、

そして、風来のシレンで、３作共、既に、かなりやり込んでいる。

 

しかし、ゲームボーイをする為に、わざわざ、外国くんだりまで来たのではないし、

こんな時こそ、歌詞を制作するべきだと思い、ノートとペンを取り出したものの、

何も出来ず、そんなに素晴らしい努力が出来るのなら、

私は、ここにいるはずがない。

 

ゲームボーイの電源を入れようとした刹那、大きな声で叫びながら、

後列の子供(小学校低学年程度)が走ってきて、ブタ野郎の横で立ち止まり、

４つん這いになった後、泣きなら嘔吐した。

 

飛行機酔いだ。

 

家族旅行で日本へ来た帰りに、

日本の食事(天ぷら、ざるそば、刺身、茶碗蒸し等)を食べて、満腹状態になった後、

立ち寄ったコンビニ屋で、お菓子(カプリコ、ひもキュー等)で追い討ちをして、

更に、機内食がトドメを差したのだろうか。

 

機内が、軽くざわめいてから間もなく、スチュワーデスさんが出現し、

手際の良い対処を施して、また、何事も無かったかのように、機内は静まり返った。

 

飲めない酒、しかも、ウォッカを飲んでいたせいで、気分が優れないものの、

すばやさの高いケンタロスを捕縛する為、

真剣に、ゲームボーイと向き合い始めて数分。

 

真の闇に堕ちた私を救い出したのは、カナダ・トロント空港に到着した事を告げる、

機内アナウンスだ。

 

飛行機の小さな窓から覗き込んだ先には、白い世界が存在しているはずが、

期待を裏切って、真っ黒だった。

 

どこで、いつの間に、時間軸が狂ったのだろうか。