左手の人差し指に、０．４ミリほどのささくれが生まれて、

昨日は、１日中、そのささくれが気になっていた。

 

１ミリ未満のささくれなど、ささくれであってささくれでない代物だから、

想像しやすいように、さくれと呼ぶ事にしよう。

 

ポケットの中で砂利銭を弄っている時、ご不浄の後に手を洗う時、

まな板の上で阿波尾鳥を切っている時、ストーブのタンクに灯油を補充する時、

愛する煙草を右手から左手へ持ち替えた時、さくれは、気を引こうとしてか、

痛みに及ばない嫌悪感で、さくれのくせに、『笹くれ！笹くれ、笹くれ！』と、

事ある毎に存在と欲求を主張してくる。

 

さくれに対する愛情など、微塵もない私からすると、

人を鬱陶しくさせる為だけに生まれてきた、唯の害でしかない。

 

どうせ、私との肉体関係を断たれた後、さくれは、さくれですらなくなり、

塵やカス、クズとして生きてゆく運命にある、無価値と同等の存在だけど、

地球へ還る前に、燃料、食料、塗料、香料、装飾品、接着剤、

漢方薬、風速計、御守り等として、大義を成し遂げてほしいと願い、

さくれを切らずに眠った。

 

翌朝は諸事情で動くし、多少、寝不足だった事もあって、

宇宙へ吸い込まれるように寝落ちしてから２時間後、着信音が鳴り響き、

小１時間の相談事が終わる。

 

しかし、その後、次なる眠りに着こうと思いながらも、

何故か、さくれの事が気になって仕方がなくなった私は、

いよいよ、遂に、さくれとの別れを決心した。

 

太陽よりも早く目覚める加藤さん夫婦が起き出して、

ゴミ箱をガサガサ揺さぶるのと同時に、さくれは、旅立つ小径をたどり、

その足跡を消し去るようにして、朝日が射す。

 

冬の朝焼けや夕焼けは、人を寂しい気持ちにさせるらしい。

今日は、久し振りに、お母さんの手料理を食べた。

本人は、早手の粗相だと言っていたけど、調味料が少なめで、

綺麗な味の優しい料理だと思った。

帰宅後、自動車運転免許証の更新日が近付いている事を知って、

興醒めしたのも束の間、実は、今回の更新で、

黄金免許証に昇格する事が判明している。

５年間の無事故無違反らしいけど、４年間、車に乗っていなかったからだろうな。

講習３０分は、素敵だ。