過去に、情報誌か何かで、見た目からホヤに入った私は、

あの、だいだい色と赤と茶褐色のコントラストや、

あの、イボイボした形状の装甲らしき外観や、お手頃なサイズ感や、

あの、決して近付いてはならない悪魔のような雰囲気に対して、

言い逃れの出来ない恐怖を、確かに感じていた。

 

そして、おそらく、その戦慄の元凶を具現化させたような出で立ちの物体が、

万力のような力でイボイボの装甲を剥ぎ取られ、鋭利な刃物で切り刻まれた、

無惨に横たわる肉塊であろう姿まで、鮮明に掲載されていた画像の記憶を、

先ほどから、シナプス共が訴えかけてくる。

 

海に住むの魔物の卵【ホヤ】の存在を知った数年後、

何処か、県外へ唄いに行った際の会食で、奴は姿を現し、遂に、初対面を果たす。

 

何食わぬ顔をして、お刺身の盛り合わせか何かに紛れ込み、

どうせ、私の身体を内部破壊しようとする、見え透いた魂胆だろうと思い、

そのような薄汚い思考の、小さな器の、海に住む魔物の卵ごときに負けるものかと、

未来への糧にしてやるぞと、息を殺しながら頬張った刹那、

口内にビッグバンが生じ、淡い走馬灯まで発生して、

最後に、海原のしぶきを浴びながら、黒い磯が神々しく浮かび上がった。

 

あまりにも衝撃的な物質だったせいで、シナプス達が味を伝えなかったと言うか、

知らないおばあちゃんが半分食べた後の、誰が握ったのか分からない謎おにぎりや、

殺人級の凶悪なサポニンを含む、山に自生したマムシ草の実(致死量以下の微量)や、

夏場の腐敗したうどん等、たいていの物を口にしてきた私でさえ、

トラウマを要するほどに、各細胞達が拒絶反応を示した事になる。

魔物の卵に呪われてから数年後、都合良く隠ぺい工作された記憶が、

フワフワと浮き足立ち始めた頃、

あかま水産(塩竈の名店)で海の幸を物色している最中に、

ずらりと並んだ水槽の１カ所だけ、そこから発生した光が通る事を、

両方の水晶体が拒んだせいで、どうしても網膜に映らない水槽が置いてあったから、

すぐさま、副交感神経を再起動させて、その水槽へ駆け寄ってみた。

 

藤棚の藤を１房もぎ取るような、容易い感覚で、

近所の自動販売機にマウンテンデューを買いに行くような、軽い足取りで、

まんまと近付いた無防備な私は、それを目の当たりにした刹那、

一気に凍り付き、崩れ落ちる。

暖色系のグラデーションに、複数の邪なる突起物、

そして、全宇宙の憎悪を濃縮したようなパイナップルは、

紛れもなく、奴だ。

 

またしても、奴に遭遇する機会が訪れた。

 

時期は外れていたものの、ノストラダムスの大予言とは、

この事、この出逢いの事だったに違いない。

 

しかし、数年の時を経て、警戒態勢を怠っていた私は、この、間抜けな私は、

あろうことか、無謀にも、邪神とのジハードに挑んだ。

 

このブログが掲載されている時点で、命が無事である事には変わりないけど、

負けジハードの傷は、果てしなく深い。

 

そんな敗北者への朗報で、実は、日本酒という武器を携えて邪神との戦いに挑むと、

甘美なる大勝利を収められるとの事。

 

今後、もし、奴と遭遇する事があれば、日本酒を携えてから出陣しようと思う。