過去に２回、まだ、挿し木を挿し木と知らない頃、

挿し木をした話。

 

ある年の冬、何となく、相模原駅付近のお花屋さんへ行き、

匂いを嗅いだり、触ったり、眺めたりしていると、

色々な花達の中に、葉っぱの付いた緑色の枝が飾られていたから、

お花屋さんに『これは、何の枝ですか？』と聞いてみたところ、

どうやらそれは、花束を作る時に使う為の、

木イチゴの枝だという事が判明した。

 

花達と一緒に束ねるのか、それとも、この枝で束ねるのか、

ググれと思われそうで、そこまでは聞けなかったけど、

『木イチゴという事は、これが育てば、実が出来て、

木イチゴを食べれると言う事ですか！？

花瓶に挿したり、土に植えたりしてっ！！』と、

やや、興奮気味に聞いてみたところ、

どうやら、育てば、木イチゴの実は出来るらしい。

 

しかし、この枝を育てるのは不可能だと言われて、少し萎えた。

 

そして、しばらく考えた後、

この、緑色の枝を購入するかどうか悩んだ末に、

結局、ポケットの中から１５０円を出し、

ジグザグに折れ曲がった緑色の枝を購入して、

生卵を運ぶ時よりも優しく、辺りを警戒しながら、大切に持ち帰った。

 

家に帰ると、すぐに箱庭(１坪の小さな庭)まで行き、

ミョウガ(坂口さんが勝手に植えた)も、

ミント類(自然配合を繰り返した謎ミント)も生えていない場所を探して、

土をほじくり返し始め、その時に出てきた鋭利な石で、

木イチゴの枝の切り口を叩き潰して、さきイカのような形状にさせた。

 

その方が、枝分かれして、根っこになりやすいと思ったからだ。

 

そして、枝分かれする直前の、地中に埋まる部分には、

お水を含ませたティッシュを巻き付けて、

遂に、木イチゴを地球の穴に挿し込んだ。

それはもう、勇猛果敢に、力強くねじ込んだ。

 

何処の木イチゴか分からない、木イチゴかどうかすらも怪しい謎の枝は、

貧弱そうで頼りなくも、じっと天を睨む。

 

その年は大雪で、屋根に積もった雪が落ちて、１部が折れたけど、

無事に冬を越え、春が訪れる頃には、土の中から新たな枝達が生まれ、

新緑の塔を築き上げた。

 

夏の日差しで幹が太くなり、青々と生い茂った葉っぱが、

裏の家に侵入していたから、苦情が来る前に、剪定を入れておいた。

 

秋には、１５０センチくらいの背丈になったし、

実を結ぶかと思いきや、お花すらも咲いていない。

 

そして、次の冬、他の植物達が姿を消す中で、

唯１つ、緑の塔は優雅にそびえ立つ。

 

これの流れを、５年近く繰り返していたら、

木イチゴの樹の小さな株が、色々な場所から生えてきた代わりに、

ミョウガの収穫量が激減した。

 

このミョウガは、夏の風物詩だし、坂口さんから受け継いだミョウガだから、

絶対に、守らなくてはならない。

 

このままだと、この箱庭が、木イチゴに支配される。

 

来年には実を結ぶかもしれないけど、木イチゴの塔を崩す事を決めた後、

根元をノコギリで切断して、小さなツルハシで、根っこを引き抜いたら、

変わった形の根っこが出てきた。

きっと、あの時のさきイカだろう。

 

本来、ここに在るはずのない物の末路としては、後味が良くないけど、

これは仕方がない。

 

この箱庭は、１坪しかないからね。

 

翌年から、ミョウガの収穫量が倍増して、

かつて、木イチゴの塔がそびえ立っていた場所には、

たくさんの大葉や、謎ミントや、バジルが生えた。

 

１本の細い枝からでも、植物は育つみたい。

 

唯、枝なら育つけど、茎はダメ。

 

しおれて、枯れちゃうからね。

 

嗚呼、深夜バス、長かった。

 

トラックの横転事故と工事で、長かったのに、

運転手さん、ありがとう。

 

ご苦労さまでした。